夢を見た後で

今朝は不思議な夢を見て起きた

中学を卒業して以来一度も会っていない女の子の夢で、その子は絵に描いたような優等生で、私は正反対の人間だったからほとんど接点なんか無かったんだけど、何故か中二の夏から卒業後しばらくまでメールのやり取りを毎日していて、

その主な内容は私が創作した物語を彼女に送り、

彼女から感想と次の話のお題や希望が来るというよくわからないものだった

生身ではほとんどまともに会話した事もなく、

クラスメイトの範囲内で世間話をした程度だったのに、何故かメールのやり取りは途切れなかった

毎日毎日飽きもせず私は彼女のための物語を作って送り続け、彼女はそれを楽しみに待ってくれていて。

思えば私の最初の読者が彼女だったんだと思う。

その女の子は、さらさらの黒髪とはにかんだ時に見える八重歯がかわいい子だったことを今も覚えてる。

メールのやり取りが始まったのも突然で、ある日急に知らないアドレスからメールが来ていて開くと「◯◯ちゃんからアドレスを聞いて送りました、エリコです」って内容で、度肝を抜かれたものだった

あの優等生の、あの子だよね?ほとんど話した事ないのに何だろう。

と、酷く戸惑った夏の日。

何がきっかけだったかといえば、私が他のクラスメイトに話していたちょっとマイナーな漫画を彼女も読んでいて、その漫画の話しているところををたまたま耳にして私に興味をを持ってくれたらしかった。

そこからどうしてその毎日物語を書いて送る、

電子の交換日記のようなものが始まったのかは今は全く思い出せないけど、それは私にとってとても楽しくて、そして青春の秘密だった。

私と彼女は毎日学校が終われば眠るまでそんなメールをしていることは誰にもおくびにも出さなかったし、学校ではほとんど他人のままで、ただのクラスメイトのままで過ごした。

毎日メールでは延々と会話しているのに学校ではお互い素知らぬ顔でいることが、それが何だか尊い秘密のような、優等生で人気者の少女をこっそり独り占めしているような、不思議な気持ちがしたものだった。

生身ではほとんど話したこともないのに、学校では何かと作らされるチームや班でも一緒になったことなんてないのに、卒業まで一度たりとも「友達」だと周りに認識されたこともないのに。

何故か私たちは大学生になったら一緒に京都に住もう、ルームシェアをしようなんて幼い約束までしていた。

何だったんだろう、あれは。

叶うことなんてきっと無いとお互いわかっていたし、何の期待も恐らくしていなかったし、なんならまともに会話をしたこともそれほど無いのにルームシェアって何だよって感じなのだけれど、

ずっと約束をしていた。

楽しみだね、そうなったらこんなことしたいね、なんて話を幾度もメールでした。

面と向かってそんなこと、一瞬も話したことないのにね。

 

彼女とは卒業してすぐの春休みの終わりがけのある日に、一度だけ、二人で本屋に出かけたことがあった。

雨のぱらつく日で、傘を差して自転車に乗って、

本屋と待ち合わせ場所だった母校を往復しただけの、カフェにも入らずあまり会話もせずの、

謎の小一時間のお出かけだった。

そのとき彼女はやまざき貴子先生の「っポイ」という漫画の話をして、それが大好きだから読んでみてと私に言った。

私は雨の音のせいで彼女の話してくれるあらすじやキャラクターのことはほとんど聞き取れなかったけれど、今度読んでみるねと言って別れた。

ふたりでの最初で最後のお出かけがそれで、

それから少ししてメールのやり取りも終わった。

私が携帯電話を壊して、連絡先がわからなくなったから。

彼女のメールアドレスはそれこそ共通の友達とかに聞けば良かったんだろうけど、私のなかに

彼女とのこの謎の関係はバレちゃいけないという思いがあったし、在学中だったら何か理由をでっち上げてうまくバレずに連絡先を聞けたかもしれないけれど、生憎もう卒業済みで、進路もバラバラだった。

電話番号は知らなかったし、お互いの家にも行ったことが無かった。

だって「友達」じゃなかったから。

だから、それっきりだった。

 

それから今日までずっと会ったこともない彼女が夢に出てきた。

突然現れた彼女は私に会いに東京まで来たと言って、ふたりで飲み屋に入り、あのときのことを覚えてる?と当時のメールのやりとりを反芻して、笑い合った。

在学中に一度だってそんなふうに話したことはないのに、この歳になってこんな話をするなんてね、とお互いに笑った。

ふとまどのそとを見ればいつのまにか夜が明けそうになっていて、そういえば何かあったの?だからわざわざ私なんかに会いに東京に来たんじゃないの、と声を掛けると

彼女が「うん、あのね、本当はね」と口を開いた。

そこで、目が覚めた。

彼女が何を言いたかったのかは聞けず仕舞いで、そういえばあの春の唯一のお出かけの日、

別れ際に彼女が同じように「あのね、本当はね」と言いかけて、やめたことがあったのを

ぼんやりと思い出した。

あの日も今日の夢も、あなたは何が言いたかったのかな。

私がいつもその先を聞けないのは、やっぱり私たちが友達じゃないから、なのかな。

 

ねえでも私ね、ほんとはね

期待もしてなかったし、信じてもいなかったけど

 

一緒に、京都に行きたかったんだよ。

 

 

起き抜けのふわついた頭で、そんなことを、思った。